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東京地方裁判所 昭和48年(ワ)2908号 判決

原告

帝都自動車交通株式会社

ほか一名

被告

小川允一

ほか一名

主文

一  被告両名は各自

原告帝都自動車交通株式会社に対して金一、〇一二万六、八七三円及び内二九二万六、八七三円については昭和四八年五月一一日以降、内金一二〇万円については昭和五〇年九月一一日以降、内六〇〇万円については昭和五一年一二月二六日以降各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を

原告三浦正春に対して金二〇万円及びこれに対する昭和四八年五月一一日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

二  原告帝都自動車交通株式会社のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、原告帝都自動車交通株式会社と被告両名との間に生じた分はこれを一〇分し、その一を同原告の、その余を被告両名の負担とし、原告三浦正春と被告両名との間に生じた分はすべて被告両名の負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実

第一申立

(原告ら)

一  被告両名は各自

原告帝都自動車交通株式会社に対して金一、一三五万円二、〇八二円及び内金三三五万二、〇八二円については昭和四八年五月一一日以降、内金二〇〇万円については昭和五一年九月一一日以降、内金六〇〇万円については昭和五一年一二月二六日以降各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を、

原告三浦正春に対して金二〇万円及びこれに対する昭和四八年五月一一日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員を

それぞれ支払え。

二  訴訟費用は、被告両名の連帯負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言

(被告ら)

一  原告両名の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告両名の負担とする。

との判決

第二主張

(原告ら)

「請求原因」

一  事故の発生等

(一) 原告帝都自動車交通株式会社(以下「原告会社」という)は自動車運送業を営むものであり、原告三浦正春(以下「原告三浦」という)は、同社に雇傭されているタクシー運転者である。

被告小川允一(以下「被告允一」という)は自家用普通貨物自動車(ダンプカー)を保有し、運送業を営んでいるもので、被告小川明美(以下「被告明美」という)は、同被告に雇傭されている自動車運転者である。

(二) 昭和四六年六月四日午前二時一五分頃、東京都葛飾区金町三丁目四九番二号先路上において、原告会社保有、原告三浦運転の後記梅津司郎外二名の客が乗つていた営業用普通乗用自動車(練馬け二五八四、タクシー、以下「原告車」という)に、被告允一保有、被告明美運転のダンプカー(茨一さ一三二八、以下「被告車」という)が衝突した。

二  被告明美の責任

本件事故は、被告明美において先行する同僚田所車を追つてハイスピードで進行していたところ、前方不注視により、自車進行の上り車線上に交通整理のため停車中のパトカー及び普通貨物車の発見が遅れ、それとの衝突を避けようとして急ブレーキの措置をとつたため、下り坂と濡れた路面とが相待つてスリツプし、横向きの状態で対向車線へ飛び出して原告車に衝突したもので、被告明美の一方的過失に基づくものである。

よつて被告明美は、本件事故により損害を蒙つた被害者らに不法行為者としてその損害を賠償すべき責任がある。

三  被告允一の責任

被告允一は、被告明美の使用者であり且つ被告車を所有し運行の用に供していた者であるところ、被告明美の前項の記載の過失により本件事故は生じたものである。

よつて被告允一は民法七一五条並びに自賠法三条により同じく賠償責任がある。

四  被害

本件事故により

(1) 原告三浦(当時二三歳)は治療約三ケ月間を要する左腎臓破裂・右前腕骨々折等の

(2) 原告車の乗客であつた訴外梅津司郎(当時三六歳)は右視野狭窄等の後遺症を残す治療約一ケ年間を要する頭部打撲・腎破裂・腸間膜裂創を伴う廻盲廻腸挫創等の

(3) 同訴外下田礼男(当時三六歳)は治療約二ケ月間を要する左環指骨々折・腰部打撲・腎損傷等の

(4) 同訴外鈴木俊勝(当時三〇歳)は治療約二ケ月間を要する頭部及び胸腹打撲・顔面挫傷等の

各傷害を負い、且つ原告車は廃車せざるを得ない程に破損した。

五  原告会社の損害

(1) 原告三浦に支払つた分 三五万五、二八〇円

原告三浦が原告会社の従業員であつたことから、同原告に原告会社は、昭和四八年二月九日までに治療費、休業補償費等合計一三一万三、八四八円を支払つた。その後自賠責保険から五〇万円、労災保険から四五万八、五六八円の計九五万八、五六八円の填補があつたので、これを差引くと右金額となる。

(2) 訴外梅津に支払つた分 二五一万一、六九〇円

訴外梅津が自社タクシーの乗客であつたところから同訴外人に対して原告会社は昭和四八年二月九日までに治療費・休業補償費等四〇一万一、六九〇円を支払つた。その後自賠責保険から一〇〇万円、被告五〇万円の計一五〇万円の填補があつたので、これを差引くと右金額となる。

なお同じく乗客であつた訴外下田、同鈴木の治療費等もすべて原告会社において支払つたのであるが、これらはすべて自賠責保険から填補があつた。

(3) 訴外梅津に対する和解金 八〇〇万円

原告会社及び被告らは訴外梅津から自賠法三条を原因として本件事故による損害賠償請求を受けたところ、原告三浦に僅かながら過失があつたとして、原告会社は一審で敗訴し、賠償を命ぜられた。そこで控訴したのであるが、控訴審たる東京高等裁判所で昭和五一年八月二五日に、原告会社と訴外梅津との間で八〇〇万円を支払うことで和解が成立し、原告会社は、同年九月一〇日に二〇〇万円を、同年一二月二五日に六〇〇万円を支払つた。

(4) 車両損 三二万七、五七二円

原告車破損による損害

(5) 休車損 五万七、五四〇円

事故当日である昭和四六年六月四日から買替の新車登録をした同月一七日までの一四日間の休車損(一日当り一万三、七〇〇円相当)である。

(6) 弁護士費用 一〇万円

六  原告三浦の損害

前記原告三浦の本件事故による負傷の部位、程度入、通院の期間に照らし、同原告の慰藉料は二〇万円をもつて相当とする。

七  結論

前記のとおり被告明美は不法行為者として、被告允一は使用者並びに運行供用者として本件事故による損害の賠償をすべき責任があるので、被告らは各自、原告会社の前記(4)、ないし(6)の損害、原告三浦の損害についてはこの責任に基き、原告会社の(1)ないし(3)の第三者に支払つた分の損害は事務管理、不当利得、もしくは共同不法行為としての求償により、これを原告らに賠償すべき責任がある。

よつて原告らは被告ら各自に対してこの損害並びにこれに対する民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めて、請求の趣旨どおりの判決を求める次第である。

「免責等の抗弁に対する反論」

一  原告三浦運転の原告車が走行した下り車線に対しては事故当時警察官による規制は行なわれていなかつたのであり、従つて原告三浦が規制に従わなかつたとの被告らの主張はまつたく理由のないものである。

二  さらに原告三浦は、事故現場手前の交差点で信号待ちの後発進し、時速約四〇キロで走行車線へ車線変更中に衝突されたもので、点灯、ワイパーの作動も怠りなく、制限速度内で、キープレフトの原則に則つた運転をしていたものである。そして右のとおり自車線たる下り車線においては何ら規制はなされていなかつたのであり、被告車の下り車線への進入はまつたく突然のことだつたのである。

そうだとすると被告ら主張のごとき原告三浦において対向車線上のパトカーや警察官の存在を察知し、徐行あるいは警笛などの措置をなすべき注意義務があつたとは到底認められず、この点においても被告らの主張は失当である。

(被告ら)

請求原因一項中、被告允一が運送業を営んでいることは否認するが、その余の点は認める。

同二、三項は、被告明美の過失を否認し、被告らの責任については争う。

同四項は不知

同五、六項は争う

「免責等の抗弁」

一  本件事故は、原告三浦の一方的過失に起因するもので、被告らが運行に関し注意を怠つたことはなく、また被告車に構造上の欠陥、機能の障害はなかつたのであり、よつて被告らは自賠法上その他の責任を負うことはない。

二  すなわち事故当時、別途ひき逃げ事故追跡中のパトカーが被告車の走行車線たる上り車線に停止して捜査を始めたため、警察官が、センターライン上に立ち上下線の各車両を誘導していた。被告明美は、警察官の警杖による指示誘導に従つて対向車線に進入し、停車中のパトカー脇を通過しようとしたところ、警察官の指示を無視して時速七〇キロ以上の速度で対向してきた原告三浦運転の原告車に衝突されたものである。

よつて本件事故は、警察官の指示を無視して停止、徐行をすることなく、高速で進行した原告三浦の過失によつて生じたものであり、被告明美は、警察官の指示に従い進行し、且つ原告車が対向して来るのに気づくや直ちに急制動の措置をとつて事故の発生を防止しようとしたのであるから、運行上の注意を怠つていない。

三  仮に右主張が認められないとしても、本件事故現場の上り車線には、パトカーが停車し、交通整理を行つていた警察官がいたのであるから、下り車線を進行していた原告三浦においても、かかる状況に鑑み、徐行するとか、あるいは交通整理を行つている警察官、対向車に警笛を鳴らすなどして自車の存在を知らせるなどの行為をなすべきであつた。

しかるに原告三浦は、パトカー、警察官の各存在に気づいておらず、従つて右のごとき措置もとらなかつたのであるから、本件事故発生につき、同原告も責任を負うべきである。

第三証拠〔略〕

理由

一  原、被告車が衝突した本件事故発生の点については当事者間に争いがなく、そして原告らの被告らに対する本訴請求はすべて、本件事故が被告車の運転手たる被告明美の過失によるものであることが前提となつている。

そこでまず本件事故の態様について検討するに、成立につき争いのない甲第一二号証、その趣旨より成立の認められる甲第一四、一五号証、同第一七ないし第一九号証、同第三二ないし第三六号証、同第三七号証の一ないし六、同第三八、三九号証、同第四〇号証の二、三、同第四一ないし第四四号証、同第四八ないし第五〇号証、同第五四、第五五号証、同第五九ないし第六一号証、原告三浦正春、被告小川明美の各本人尋問の結果を総合すると、以下の事実が認められる。

(一)  本件事故現場は亀有方面から松戸市方面へ通ずる国道六号線(通称水戸街道)上で歩車道の区別があり、全幅員約一九・六メートル、車道幅員約一四メートル(片側各二車線)、両側に設置された歩道の幅員は各約二・八メートルである。

車道はアスフアルト舗装され、上り車線方向へ約三・五パーセントの下り勾配となつており、ほぼ中央に幅約〇・五五メートルのセンターラインが設置されている。

原告三浦運転の原告車は下り車線を亀有方面から、被告小川明美運転の被告車は上り車線を松戸市方面から、双方対向して本件事故現場に差しかかり、被告車においてセンターラインを越えて対向車線に進入し、下り車線の車線区分付近で両車は衝突したものである。

(二)  本件事故現場を、松戸市方面から進行して来た被告車はその約二〇〇メートル手前から、亀有方面から進行して来た原告車はその約一二〇メートル手前から見透すことができる。事故当時は深夜であつたが、付近は、道路両側に約五〇メートル間隔で約四〇〇ワツトの水銀灯が設置されているので比較的明かるく、前照灯を点灯して約一〇〇メートル前方の障害物を認識できる。

現場付近は、東京都公安委員会により最高制限速度時速五〇キロと提示されている。交通は頻繁で、事故直後の昭和四六年六月四日午前二時三五分から午前三時三〇分の間実施された実況見分時において五分間に約四〇台ないし五〇台の車両の通行があつた。

(三)  本件事故直前、現場付近の上りの第一車線上に貨物自動車が停止し、そのすぐ右横の後側に約三〇センチの間隔をおいてパトロールカーが停止し、警察官らにおいて貨物車を取調べていた。なおパトロールカーは、右タイヤが上りの第二車線に若干はみ出している状態で、その後方(松戸市寄り)約一五メートルの第一車線と第二車線の車線区分線付近に警察官が佇立し、上り車線の交通整理に当つていた。

(四)  当時路面は湿潤していた。そのため前記実況見分時において現場付近は下り車線上をはじいて広範囲にわたりガラス破片、泥等が散乱していたが、スリツプ痕等は発見されなかつた。衝突後被告車は対向車線たる下り車線のほぼ車線区分上に亀有方向を向いて停止しており、原告車は同じ下り車線の第一車線と歩道に跨つて停止していた。

そして被告車(貨物自動車ダンプカー、最大積載量一〇・五トン、車長七・五〇五メートル、車幅二・四六メートル、車高二・八九メートル)は衝突により車体右後部が大きく破損し、右後輪のダブルタイヤの後輪が曲損して回転不能の状態であつた。他方原告車(営業用普通乗用自動車、車長四・六六五メートル、車幅一・六九〇メートル、車高一・四五五メートル)は、車体の右前半部が大破し運行不能の状態であつた。

なお被告小川明美の、本人尋問の結果中、及び書証中の供述記載、成立に争いのない乙第一号証、前記甲第四二号証の田所務の供述記載中、事故現場付近に停車していた貨物自動車、パトロールカーの位置、警察官が佇立位置に関し、右認定と異なる部分があるが、それらは事故現場付近の状況、パトロールカーが貨物自動車を取調中であつた事実に照らし措信できないところである。

そして右認定事実を前提として前記証拠を総合すると、本件事故の態様は、被告小川明美において被告車を時速約六〇キロで運転し、上りの第二車線を進行して本件事故現場に至り、前方約六三メートルの地点に停車中の前記貨物自動車とパトロールカーを認め、減速すべく制動措置をとつたこと、しかるに路面が湿潤していたため被告車後部がスリツプしてセンターラインを越え右斜め対向車線上に滑走したのであるが、この時下り車線(対向車線)の第二車線上を対向進行して来る原告車のライトを約五〇メートル前方に発見し、あわてて急制動の措置をとつたこと、そのため被告車は一層右斜め方向に滑走し、右センターラインを越えはじめた地点から約二一メートル右斜め方面へ進行した対向車線上で被告車の右後部付近が原告車の右前部付近に衝突したこと、原告三浦は、この時乗客三名を乗せて原告車を運転して松戸市に向つていたのであるが、事故現場約五〇メートルの所で信号待をして、時速約五〇キロで先頭で下り車線の第二車線上を本件事故現場に差しかかり、前記上り車線上に停車中のパトロールカー、貨物自動車並びに対向直進車たる被告車を意識しないまま第一車線へ進路を変更しようと後方を確認しつつ第二車線の左方寄りを進行中前方進路上に被告車を発見し、急制動の措置をとつたが及ばず、右のとおり衝突に至つたものであることがそれぞれ認められる。

二  右認定の本事故の態様からすると、本件事故は被告小川明美の前方不注視、路面湿潤時における不適切な制動措置という過失に大部分起因している。しかし前認定のとおり被告車は大型のダンプカーで、前記甲第一五号証(写真)、被告小川明美の本人尋問の結果によれば、被告車には左右の前照灯車幅灯のほか、前面の屋根の上にタコメーターのライトが三つ、運転席の上に四角い縁どりのネオンが付いていたことが認められるところ、右認定のとおり原告三浦は被告車の衝突直前までまつたくこれに気づいていないのである。

そうだとすると事故当時原告三浦においても前方注視を怠つていたと推認され、この過失も僅かながら本件事故の原因となつていると推認される。

そこで前認定事実をもとに双方の過失を比較考量すると、その過失割合は被告車を九、原告車を一と認めるのを相当と判断する。

なお右のとおり本件事故は、被告小川明美と原告三浦の過失が競合して生じたものであるから、原告会社が本件事故による被害者に支払つた賠償金を、事務管理、不当利得として被告らに請求できるとの原告会社の主張は理由がなく、原告会社は共同不法行為者たる被告らに対してその負担分を求償できるのみである。

三  右のとおり被告小川明美の過失が本件事故の原因となつているので、同被告は不法行為者として、原告三浦、原告会社の本件事故による損害を賠償すべき義務があり(但し原告三浦の過失を過失相殺として考慮することになる)、また原告会社が共同不法行為者として被害者に支払つた賠償金につき、それが適正な損害額と認められる限り、その過失割合によつて算出される負担分の求償に応ずべき義務がある。

次に前記甲第四三号証、その趣旨により成立の認められる甲第一六号証、被告小川明美、同小川允一の各本人尋問の結果によると被告小川允一は建設業、一般土木関係の業務を営み、当時被告車を含む五台位の貨物自動車を使用しており、弟たる被告小川明美を運転手として雇用していたこと、事故は同被告に命じて川崎埠頭まで石を積みに行かせた途中に生じたものであることが認められる。

そうすると被告小川允一も、原告三浦の蒙つた人的損害については自賠法三条により、原告会社が蒙つた物損については被告小川明美の使用者として、また同原告の求償分については連帯債務者としてやはりこれを賠償すべき義務がある。

四  原本の存在、成立とも争いのない甲第二、第三号証、成立につき争いのない甲第四ないし第六号証、その趣旨より成立の認められる甲第六号証、同第二〇ないし第二九号証、証人口岩幸一の証言、原告三浦正春の本人尋問の結果を総合すると、本件事故により原告三浦正春、原告車の乗客であつた訴外梅津司郎、同下田礼男、同鈴木俊勝は、請求原因四項記載どおりの傷害を負い治療を受けたこと(なお入院治療期間は原告三浦正春が三六日、訴外梅津司郎が七三日、同下田礼男が四五日、同鈴木俊勝が一五日である)、及び原告車は前記のとおり大破し、使用不能でこれを廃車としたこと、がそれぞれ認められる。

五  右事実を前提としてまず原告会社の損害、被害者等に対する賠償額をみるに、次のとおりとなる。

(1)  原告三浦に支払つた分 三五万五、二八〇円

証人口岩幸一の証言により成立の認められる甲第七号証、同証人の証言、原告三浦正春の本人尋問の結果を総合すると、原告会社は、原告三浦が同社の従業員であつたことから、同原告の治療費合計六三万五、〇〇六円を負担したこと、また同原告は事故による負傷のため昭和四六年八月末日まで欠勤し、それ以降は出勤したがそれは身体を慣らすためで、翌昭和四七年二月二〇日まで完全に稼働することは出来ない状態で、休業しているのと同様であつたが、原告会社はその間も原告三浦に給与を支払い、その合計は少なくとも六七万八、八四二円に達したことがそれぞれ認められる。

よつて原告会社は原告三浦の損害合計一三一万三、八四八円を支払つているところ、自賠責保険等から合計九五万八、五六八円の填補を受けたことは原告会社の自認するところなので、これを差引くと原告会社が負担した原告三浦の損害は右金額となる。

(2)  車両損 三二万七、五七二円

証人口岩幸一の証言によつて成立の認められる甲第九号証、同証人の証言によれば、事故当時の原告車の期末簿価が右金額であつたことが認められる。従つて原告会社は、原告車が使用不能となり廃車したことにより少なくとも右金額を蒙つたと認められる。

(3)  休車損 五万七、五四〇円

証人口岩幸一の証言により成立の認められる甲第一〇号証、同証人の証言によれば、原告会社は、原告車に替る車両を事故の一四日後に新車登録したのであるが、当時原告車と同程度の車両の一日当りの実収入は少なくとも四、一一〇円であつたことが認められる。よつて原告会社は原告車が大破して使用できなかつたことにより右金額の損害を蒙つたことになる。

(4)  訴外梅津司郎支払分 二五一万一、六九〇円

証人口岩幸一の証言により成立の認められる甲第八号証の一ないし三、同証人の証言によれば、原告会社は、昭和四八年二月初めまでに原告車の乗客であつた訴外梅津司郎の治療費、並びに休業損害等合計四〇一万一、六九〇円を負担したことが認められる。その後自賠責保険、及び被告らから合計一五〇万円の填補があつたことは原告会社の自認するところなので、これを差引くと右金額となる。

そして次に述べるとおり、その後原告会社は訴外梅津司郎から逸失利益、慰藉料等の支払を求められ、結局八〇〇万円を支払うことで両者間に和解が成立した事情に鑑み、原告会社が訴外梅津司郎の損害として負担した右金額は妥当な額と推認される。

(5)  梅津司郎に対する和解金 八〇〇万円

公務員作成に係りよつて真正に成立したものと認められる甲第六三、第六四号証、その趣旨より成立の認められる甲第一三号証、証人口岩幸一の証言によれば、原告会社及び被告らは、訴外梅津司郎から入院雑費、逸失利益、慰藉料の支払を求めて訴を提起(当庁昭和四八年(ワ)第五〇三五号事件)され、前記のとおり同訴外人は本件事故により重傷を負い且つ後遺症も残つたことから、同訴外人の損害は多額となり、原告会社、被告らは同訴外人に一、〇八三万五、九二八円及びこれに対する年五分の遅延損害金を支払えとの判決が昭和五一年一月にあつたこと、そこで原告会社は控訴したのであるが、昭和五一年八月二五日に控訴審たる東京高等裁判所において原告会社と訴外梅津司郎との間に、原告会社において、同訴外人に八〇〇万円を、昭和五一年九月一〇日限り二〇〇万円、同年一二月二五日限り五〇〇万円と分割して支払うことで解決済とする旨の和解が成立し、原告会社は約定どおり訴外梅津司郎に八〇〇万円を支払つたことが認められる。

右認定事実よりすれば原告会社が本件事故の被害者たる訴外梅津司郎に支払つた和解金が適正な損害額を超えないことは明らかである。

(6)  過失相殺等

前記原告三浦の過失を考慮して過失相殺をなし、原告会社は右(1)ないし(3)の損害合計七四万〇、三九二円の九割に該る六六万六、三五二円を不法行為責任等を負う被告らに請求できることになる。

また右(4)、(5)の原告会社が共同不法行為者として本件事故の被害者たる訴外梅津司郎に支払つた賠償金は、被告らにその九割を求償でき、よつて(4)については二二六万〇、五二一円、(5)については七二〇万円を被告らに請求できることになる。

(7)  弁護士費用 一〇万円

本件審理の経過、認容額に鑑み、原告会社が請求する右金額の弁護士費用は、本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。

(8)  遅延損害金の起算日

よつて原告会社は右合計一、〇一二万六、八七三円を被告らに請求できるところ、和解による支払の求償分を除く二九二万六、八七三円については不法行為による損害として本件事故発生と同時に遅滞におちいつている分と原告会社が遅延損害金の起算日として主張する昭和四八年五月一一日以前に現実の出捐がなされていて同日前に遅延におちいつている求償分なので、同日以降民法所定の年五分の割合による遅延損害金を被告らに請求できる。

次に和解によつて訴外梅津司郎に支払つた八〇〇万円の求償分については、前記のとおり原告会社において現実の支払をしているので、内一二〇万円については昭和五一年九月一一日以降、六〇〇万円については昭和五一年一二月二六日以降(いずれも支払日の翌日)被告らに遅延損害金を請求できることになる。

六  最後に本件事故によつて蒙つた原告三浦の苦痛に対する慰藉料について検討するに、前認定の傷害の部位、程度、入・通院期間に照らし、同原告の過失を考慮しても、その慰藉料が請求額たる二〇万円を下らないことは明らかである。よつて被告らは原告三浦に対してこの金額及びこれに対する本件事故後である昭和四八年五月一一日以降支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。

七  以上の次第で、原告会社の本訴請求は前記限度で、原告三浦の請求はすべて理由があるのでこれを認容し、原告会社のその余の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 岡部崇明)

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